お知らせ

花か、芽か

2021.05.19

今年も新芽と花の季節を迎え、みかん作りの新しい一年が動き始めました。秋の実りに向けて今年の作柄はどうなっていくのか、はっきりとした傾向が目に見える時期です。野菜や米には種まきや定植をスタートにして作付ごとに明確な区切りがありますが、果樹栽培は長い年月をかけて樹が行う生命活動の一年を切り取って一つの作としていくもの。春の新芽や花は、今年の収穫だけではなく、来年、さらにその先にまでつながっていきます。

 

まだ冬の寒さが残る頃、みかんの樹は常緑樹とはいえ旧葉が落ちて葉数を減らし、葉の色も薄くなります。果実を育てるのに疲れ、寒風に吹かれて寂しくなっていたみかんの樹ですが、芽吹きのための養分は根に溜め込んでいます。日が伸びて気温が上がり春の雨水をもらうと養分が供給され、新芽が目覚めて日に日に活力を取り戻していきます。

 

前年の春に出た新芽がすくすくと育った枝、ここに次の芽が宿っています。芽吹きの前にみかんの樹を観察すると、旧葉の付け根や枝の節目などに小さな黄緑色の膨らみができてくることがわかります。この膨みから、最後は雛が卵殻を割って出てくるように、新芽や蕾あるいは蕾を持った芽として顔を出してきます。ここで何が出てくるのか、一本の樹として、あるいは園地全体としてどんな傾向になっているのか。みかん作りでは大きな分岐点になります。

 

葉の付け根に注目。

芽(枝)になるのか、花(果実)になるのかが決まっていく時期を花芽分化期といいます。前年に作られた枝の内部で花か芽かの選択が行われるのですが、この花芽分化は芽吹きの直前ではなく収穫前の秋には既に始まっています。種をまいてリスタートするものではないのがみかん作りの大きなポイントで、前年の樹の状態が翌年の作をある程度決めてしまうことになります。みかん作りは、同時に生まれた今年の子供と来年の母親を一緒に育てていくようなものです。

こうして見ると、春の芽吹きは花と新芽とのバランスがとれた状態が理想になります。花が多ければ今年の果実はありそうですが、来年に向けては不安があります。新芽が多ければ今年の果実は少ないですが、来年の収穫には期待できそうです。この芽花のバランスは最終的には実際に芽吹いてみないとわかりません。今年は花が多いとか少ないとか、愛媛ではこうだが和歌山や静岡ではどうだとか、産地では花談議に花が咲きます。

 

剪定痕に新芽が伸びはじめた。

無茶々園では、10年ほど前まで隔年結果といって温州みかんの豊作凶作が交互に訪れる年が続き、生産地として大きな課題になっていました。当時を思い出してみると、豊作年にはみかんの樹にびっしりと花が着き、不作年は新芽ばかりで花は見えず、翌年の傾向まで決まっているためなかなか解決が見通せない悪循環でした。これも花と芽を同時に育む柑橘の性質によるものです。

さて、今年の芽吹きは少なくとも向う2年間を占う大事な節目です。昨秋は好天が続き花芽が作られやすい気候だったため、全体的にみると順調に花は着きそうな予感。そして何よりも春の訪れが早く、新芽も開花もこれまでの常識では考えられないくらい早期化しています。今年はあらゆる生育や成熟が前倒しで進むかもしれません。芽吹きは樹それぞれにすべて異なりますが、みかんの一生にとって今年はどんな年になることでしょうか。

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