創設者 片山元治コラム
「わしらの農業」
column

私が感じたキューバ農業

2012.07.25

(1)砂糖きび畑

 子供の頃、砂糖はキューバと社会課の時間に習った。実際、見渡す限り砂糖きび畑が続いていた。
しかし、どの砂糖きびも緑色でなく黄色で今にも枯れそうです。
認証の畑を見に行った。この畑も黄色です。冗談じゃない。名門キューバの砂糖きび畑が泣いているぞ!
この畑を認証して、買う奴はドイツダ、ドイツ か?冗談じゃない、キューバの弱みにつけ込んで認証しやがって、と感じたのは私だけだったのでしょうか。
こんな砂糖きび畑の砂糖なら、コストはかかるし、2級品3級品の砂糖しか出来ないはずです。
どの畑も、農薬も肥料も入れてないのですから、認証しようとすれば可能です。
十分に堆肥が行き届いていて、 立派な砂糖きび畑なら認証すべきですが、ホネカワスジエモンの砂糖きび畑を認証してどうなるのでしょうか。
有機農業よりも、この畑に硫安や尿素をやってで も名門キューバの砂糖きび畑を再生することが先だと感じました。
キューバの砂糖きびは高度化成肥料を少しやれば、農薬なしで一級品の砂糖が取れます。

 砂糖は日本で作るには農薬が必要なようです。困っているのならなぜ化成肥料を送ってあげないのでしょうか。日本で作るよりかはるかに安心な砂糖ができま す。日本から砂糖農家がいなくなってもたいした問題ではありません。グローバル化の時代です。砂糖ぐらい何処かの国に命がけでお願いするくらいの国際交流 が必要ではないでしょうか。

 国際間では、人殺しの兵器が公然と自由に売買されているのが事実です。化成肥料を調達するぐらい簡単な事と思います。一級品の砂糖を作らなければ、名門 キューバの砂糖は国際的に復活しません。アメリカに経済封鎖され、売り先が無いなら市民の力で、市民貿易をやることです。キューバ国内に沢山ある工場のう ち、一工場でも良い砂糖を生産出来るようになればキューバ砂糖の復興の起爆剤になると思います。とにかく砂糖を買う仕組みが要ります。

(2)果樹園視察

 キューバにも沢山なオレンジ畑があるようです。道すがら、延々と続くオレンジ畑を見ました。しかし、どの木もなにかしら弱りきった感じで、これはなんだろうかと危機感を持って窓から見ていました。

 事務所につき、園地を見せてもらい、訳がわかりました。バイラスによる台木不親和を起こしているのです。どの園も生産性は30%以下になっていると思わ れます。このままでは、キューバのオレンジ園は壊滅するでしょう。農薬問題は別として、ホテルで飲んだ絞り立てのオレンジジュースは本当に美味しかったで す。こんな深刻な状態のオレンジ畑を見て、私達は何をすれば良いのでしょうか。一民間人ではどうしようもない、とてつもない現状を見てしました。同じミカ ン農家として恥ずかしい限りです。

 グレープフルーツの畑を見せてもらいました。農薬も除草剤も最小限に押さえていると言ってました。オレンジと比べ樹勢が良く少しはほっとしました。それ でも、所々に萎縮病の出ている枝を見ました。黒点病、カイガラムシ、ダニ、いろいろ日本と似たような熱帯性の病害虫がイッパイいる事もわかりました。 キューバの柑橘は農薬ナシでは経済栽培にはならないでしょう。私の30年のミカン栽培の経験と、熱い国を旅した経験です。

 選果場を見せてもらいました。日本の選果場とほぼ同じです。日本の選果場は、年取った婆ちゃんがほとんどです。キューバでは、スポットライトに照らされ てサンバを踊っていたような姉ちゃん達が、選果作業をやっておりました。選果ラインが2本あって、一方はヨーロッパ行き、一方は日本行きだそうです。ヨー ロッパ行きは防腐剤シャワーラインが付いています。彼女達は、防腐剤がついてベトベトしているオレンジを、素手で持って選果をしていました。日本行きのラ インにオレンジが流れると、多分そのまま選果ラインに並んで素手で選果をするのでしょう。彼女達は農薬の毒性を知らされてないのか、知っていても危機感が ないのか。工場の責任者は農薬の毒性の教育を受けているのか。日本なら、賠償問題になるのではないでしょうか。ここでも無知の怖さを知らされました。

(3)野菜畑視察

 野菜畑も見せてもらう機会がありました。キューバも社会主義の国ですから、中国やベトナムと同様、自分で自由に耕作して良い小さな畑があるものと思われ ます。そこで自分のところの食べ物を自給しているのだと思います。自由市場には野菜や果物が並んでありました。ハバナは都市ですから、高級スーパーもあり ます。自給用野菜畑で作ったものを、売れる物ですから売り始めた。何時の間にか自給用の畑が販売用の畑に変わっていた。しかしキューバは社会主義の国です から、儲かるからと言って面積を自由に拡張させるわけにも行かない。これが現状だと考えられます。

 キューバはブラジルのように主食が豆だそうです。これは理にかなっています。しかしながら、食文化の歴史は浅く、ヨーロッパ系だと思います。ほとんどの 栽培品目は国外から持ちこんだもので、キューバ古来の食べ物は少ないのではないかと思います。それ以上に、情報が発達するとキューバ的食生活が世界の大都 市風になり、キューバでは育ちにくい野菜の生産が要求されるようになります。

 個々の農家では自給用に豚や鶏を飼っています。飼い方は、出来るだけ餌をやらなくて良いように、放し飼い等で飼っています。そして、その何がしかの畜糞 が自給農場の肥料です。貨幣経済でなければ実にうまく回っていました。農業公社か合作社かは知りませんが、砂糖きびやオレンジ等輸出農業がうまく回ってい れば、現金はそこで働いて手に入れる。自給農場で、豊かな食生活と言う事になります。ところが、私の見た範囲では輸出産業がうまく回っていない。そのた め、自給農場が現金収入の場となってくる。自給農場の仕組みが崩れるのは非常に簡単です。販売する作物を作るから肥料が足りなくなる。難しい作物を作るか ら農薬がいる。

 大雑把に言って、古来のもの、熱帯系のものは、放任やチョットした手入れで栽培可能ですが、そんな物は何処にでもあるので作っても儲からない。儲かる作 物を作りたい。儲かる作物は病害虫にやられやすい。収穫皆無となると、生きていけない。少々高くても農薬をやれば何とか収穫できる。背に腹は変えれないか ら農薬を使う。すばらしい効き目に驚く。こいつがあれば安心して作れる。生活は少しは裕福になる。底辺の生き方をするよりかチョットぐらい自命がちじまっ ても家族が喜ぶなら、となってくるのが私の激貧海外旅行で見てきた農家の自給から貨幣経済への入り口です。キューバも例外ではないはずです。

 化学肥料・除草剤・農薬の輸入禁止、製造禁止、使用禁止を麻薬のように取り締まれば有機栽培は可能です。
でなければ、キューバだって何処からでも農薬、化成肥料は入ってきます。私の訪問した農家も、農薬は予想通り使っていました。熱帯ですから使用頻度も高い ようでした。現金収入は底辺から抜け出そうとする人々の切なるユメなのです。有機栽培が安定して生産ができ、高く売れるのでしたらみんなやってます。有機 農業者は、収穫ゼロの事態も想定し、そのリスクも生産物にオンされ無いとやれないと言う事です。だから、日本では1000分の1以下しかいないのです。

 つまり、有機農業は先進国の贅沢農業なのです。日々、汲々と生活している農家には出来ません。これが、私が30年間やってきた有機農業へ自戒です。しょ せん、現状の世界では有機農業は金持ちの為の農業なのです。そんな農業をやってきてどれだけの運動になったのでしょうか。自然環境はマスマス破壊されて来 ています。世界の一方で餓死しそうな人々がおり、一方で飽食三昧な人々がおり、そのなかで世界中の家族農業が貧困に喘ぎながら企業農業につぶされようとし ています。

 キューバには有機農業よりも、農薬の正しい使い方、化学肥料の正しい使い方を農家は良く知るべきです(日本も同様です)。そして、アメリカに翻弄された キューバ経済の立てなおしをどのようにされるのか。キューバ文化と文明の共存の視点をきめ、21世紀にキューバ国家をどのように発展させていくのか明確な ビジョンを持って農業改革をやらねなりません。その中で、キューバは有機農業をどの程度にするか。大掛りにやるとすれば、肥料専用草食家畜等も飼わねばな らないでしょう。それ以上に育種が間に合わないと思います。それまで、必要悪な農薬、必要悪な化学肥料は使わざるを得ないと思います。

 キューバの農地で何が一番多く栽培されているか、2番目に多い作物は3番目は。これらの畑は十分な有機肥料があって無農薬で栽培されているのか。有機認 証の仕組みが理解されているのか。有機農業が盛んか否かはこの部分の確認をすればすぐわかります。それは無意味です。

 自給自足で電気も水道もテレビも車も欲しがらず、文明を拒否するならば原始有機農業が成立するが、貨幣経済の中で発展を目指し生きようとする後進国では 有機農業は主流になれないしそれは究極の目的にすべきであって、農業の現場にそれを強要するならば混乱をきたします。

 化学肥料も農薬も買えないから、有機農業が盛ん。ということは、貧乏国は有機農業をやれということか。化学肥料を使うのは金持ちの国か。黄色くかれそう な砂糖きび、へなへなの野菜を見たとき、カストロの強靭な理想と文明の誘惑にも負けず、ついてきたキューバ国民に頭が下がり、用意して頂いたサンバのリズ ムにも、何かしら酔い切れなかった。陽気なキューバの農民達と同じ視線でキューバを見ようよ!そして、一緒に家族農業を考えようよ!!

pagetop