柑橘をはじめとした常緑果樹の苗木はだいたい3月に植え付けを行います。気温が低く活動が落ち着いている冬が終わり、まもなく新芽や根が動き出すころ。根を掘り上げて移植するダメージも少なく、移植先でもじきに大地に根を伸ばしてくれます。数十年にわたって同じ作物を作り続ける果樹栽培では、経済栽培としての生産性が落ちた園地をリセットする機会。また、苗木を植えることは新しい品種との付き合いもはじまることでもあります。
苗木を植える生産者。
柑橘類にはたくさんの品種が存在します。柑橘のルーツはインドあたりにあると言われていますが、自然発生で誕生した品種が時間をかけて分岐してきました。一本の樹のなかで新芽が伸びる際に突然変異が起こり、形質が変わった品種が生まれることを枝変わりと言います。また、花粉が自然に交雑した結果、種から新しい品種が生えて来るのが偶発実生。温州みかんや伊予柑、甘夏、文旦、オレンジ、レモンなど昔から作られてきた柑橘はこうして自然に発生した品種を人間が見出して栽培してきました。さらに近年では人工的に交雑させる育種が盛んになり、ますます多くの品種が生み出されるようになりました。平成以降に日本で登録された柑橘の品種だけでも200以上あるそうで、無茶々園でも作っている代表的な育成品種は清見、不知火、せとか、甘平などなど。現代人の好みにあわせて、甘く、柔らかく、食べやすく、との方向性で開発されているため、確かに美味しい反面、栽培管理では作りにくい一面もあります。
愛媛は国内では有数の柑橘産地であり、さまざまな品種が栽培されています。温州みかんの県内最大産地である八幡浜市ではほぼ温州みかんだけを作っている地域もあります。また、愛媛南端の愛南町では甘夏や河内晩柑の一大産地。こうしてある品種に特化して産地化している地域もありますが、明浜や宇和島あたりは温州みかんを主軸にしながらたくさんの品種を作る地域。地形や気候の影響もありますが、産地それぞれの考え方があります。
無茶々園の甘夏、河内晩柑(ジューシーフルーツ)も愛南町で大半を生産しています。
写真は愛南町にあるてんぽ印の甘夏の樹。大きくなりすぎて収穫が大変です・・・
昔からお付き合いいただいている方はご存じだと思いますが、昔の無茶々園では温州みかん、伊予柑、ポンカン、甘夏の4本柱に少しネーブルオレンジと八朔があったくらいの品種構成でした。いまから25年ほど前に育成品種の清見やせとかを導入して品種増加のきっかけとなります。愛南町で河内晩柑に取り組み始めたのもこの頃。2004年の台風被害後には植え替えが必要な園地が増えたこともあり、全国的にも知名度のある不知火(デコポン)を増やしていきました。そのあとには南津海、弓削瓢柑が続き、10年前からはレモンの増産を行ってきました。これ以外にも農家が自ら導入を進めた品種もあり、いまでは販売している品種で35種類を超えるほどの数になりました。さらに例えば温州みかんのなかにも種類がたくさんあり、ここまで数えると100種くらいになります。
最後に、最近導入を拡大している品種をご紹介。無茶々園の栽培では味は良いが作りにくい育成品種より、個性的・野性的な自然発生の品種が向いているようにも思います。気候変動や栽培・販売環境の変化も見据えつつ、新しい品種だけではなく、古い品種も含めて構成を考えています。数年経てば苗木も大きくなり、また皆さんにお届けする柑橘も変わって来ることでしょう。
由良早生・ひめのか
いずれも温州みかんの一品種。由良早生は10月頃にする極早生品種。玉のサイズが小ぶりなのですが、樹は育てやすく、味が安定しているのが強みです。ひめのかは逆に晩生に近い品種。愛媛県が育種、選抜した高糖系の温州みかんです。12月から1月はじめに出荷します。
※写真は「ひめのか」です。
宮内伊予柑
明浜では50年以上前に一気に導入し、その後の新規導入が進まずに高齢化が進行中。しかし、このまま自然消滅するのも忍びなく、改めて植え替えをはじめています。
ブラッドオレンジ
地球温暖化で愛媛は南イタリアみたいな気候になる。嘘かまことか、こんな掛け声で宇和島近辺の南予地域で導入が進んでいます。徐々に生産量も増えてきました。
土佐文旦
ファンの多い品種ですが愛媛ではあまり作られてこなかった文旦。病害虫への耐性や気象障害の観点からも、増やして良いのではと見直している品種です。
かぶす(ダイダイ)
柑橘は生食だけなく果汁や果皮にも利用価値があり、レモンやゆずなど香酸柑橘と言われるグループにも存在感があります。オレンジ系香酸柑橘のダイダイも見直したい品種のひとつです。