お知らせ

100年続く集落を目指して

2020.12.14

金木犀が香りだすと「さあ、祭りの季節」とばかり町中がそわそわするのですが、今年は少し様子が違いました。町内の秋祭りすべてが中止。2004年の台風以来じつに16年ぶりの事です。新型コロナウイルスの影響を受けての決定ですが、狩浜地区だけは祭りの要である春日神社の大規模な修繕工事が始まっていたことからいち早く中止が決まっていました。

 

狩浜地区の中心に位置する春日神社。海に向かって建てられた鳥居を抜け急な2つの石段を登った平坦地に拝殿があり、拝殿の段上に中殿、さらに上段に本殿が建てられています。創立期の記録はなく「永禄年間(1558~1570年)に社殿を再興」というのが最も古い記述ですが、鎌倉時代初期の創立、さらに境内で発見された土器等からそれ以前よりこの場所で祭祀を執り行ってきたと推測されています。

 

修復以前の春日神社。壁の取り外しができ住民が集うことができる。


本殿は1743年に宇和島市吉田町立間にあった祈願所の建て替えの際に譲り受け、拝殿・中殿は1804~1830年頃の建立、その後数十年ごとに修繕を繰り返しながら春日神社は現在にいたるまで地域結集の中心として位置づけられてきました。最近では本殿が1930年(昭和5年)、拝殿は1981年(昭和56年)に「昭和の大修理」と呼ばれる修繕を行っており、今回の修繕はそれに続くものとなります。


ところで2019年に「宇和海狩浜の段畑と農漁村の景観」として段々畑を中心とした狩浜一帯が文化庁の定める文化的景観に選定されました。春日神社も歴史・文化的価値からその重要な一要素と定められ、今回は新築の計画を変更し、できるだけ現状を残すよう拝殿と中殿のみの改修となりました。現在、拝殿・中殿が取り壊されて土台と柱のみが建ち、子どもたちが遊んでいたお宮の前の広場には足場が組まれています。うっそうとした樹々に囲まれた静謐な参道には再活用する木材を保管するための大きな仮置き場が設置されており、私たちが慣れ親しんだ春日神社を思い描くことはできません。また、予想以上に白アリ被害がひろがり、その分の木材供給が間に合わず完成時期とされていた3月から数か月遅れる見通しですが、このような状況も含め「令和の大修復」として語り継がれることになるのでしょう。

 


さて、今年はお祭りがないから何もしない、という訳ではありません。牛鬼の担ぎ手たちは12年ぶりに牛鬼の胴体=カゴを作り替えています。9月、山から竹を収穫することから始まり、それ以降の作業は週に3回、日が暮れてから大きな倉庫を借りて行っています。設計図はなく昨年まで使っていたカゴがすべて。「まあ、やってみようや」という軽い調子とは裏腹にゆっくりと竹をしならせ慎重に作業を進めています。まずは「見て、やってみる」という姿勢に脈々と受け継がれてきた狩浜人らしさを垣間見ることができます。

 

左側が昨年まで使用していた牛鬼のカゴ。伝統が引き継がれていく。


狩浜の秋祭りは毎年10月第4土曜日。来年は令和の大修復を終えた春日神社と新しいカゴとなった牛鬼の豪快な切り回しを披露することでしょう。そして私たちが見ることはかないませんが、2120年、再び「100年後の集落のために」と神社の改修や牛鬼のカゴをつくる時を迎えていることを願っています。

 

 

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